【理論】平成29年 問9|ひずみ波交流電流による抵抗の平均電力の求め方に関する計算問題

抵抗 \( R = 5 \ \Omega \) に,\( i = 6\sin \omega t + 2\sin 3\omega t \) [A] の電流が流れた。

このとき,抵抗 \( R = 5 \ \Omega \) で消費される平均電力 \( P \) の値 \(\left[ \mathrm{W} \right]\) として,最も近いものを次の (1)~(5) のうちから一つ選べ。

ただし,\( \omega \) は角周波数 \(\left[ \mathrm{rad/s} \right]\)\( t \) は時刻 \(\left[ \mathrm{s} \right]\) とする。

合格への方程式

正弦波交流の基礎

交流とは、時間とともに大きさと向きが周期的に変化する電流のことです。家庭用コンセントから供給される電気は交流です。

正弦波交流とは

正弦波交流は、時間に対して正弦関数(サイン関数)で変化する電圧や電流のことです。これは最も基本的な交流波形で、発電機から発生する電気はこの形に近くなっています。

正弦波交流の数式表現

正弦波交流は以下の式で表すことができます:

\[ i(t) = I_m \sin(\omega t) \; [\mathrm{A}] \]

ここで:

\(I_m\):電流の最大値(振幅)\([\mathrm{A}]\)

\(\omega\):角周波数\([\mathrm{rad/s}]\)(\(\omega = 2\pi f\)、\(f\)は周波数\([\mathrm{Hz}]\))

\(t\):時刻\([\mathrm{s}]\)

日本の交流電源

日本の家庭用電源は交流で、地域によって周波数が異なります:

  • 東日本:50Hz
  • 西日本:60Hz

電圧は100Vで統一されています。

例:正弦波交流の表現

周波数60Hz、最大値10Aの正弦波交流を式で表すと:

\[ i(t) = 10\sin(2\pi \times 60 \times t) = 10\sin(120\pi t) \; [\mathrm{A}] \]

この電流は1秒間に60回の周期で振動し、最大で+10Aから最小で-10Aまで変化します。

交流の実効値

交流は常に変化しているため、その「大きさ」を表すには特別な方法が必要です。そこで使われるのが「実効値」という概念です。

実効値の意味

交流の実効値とは、同じ電力を発生させる直流の値です。つまり、実効値が100Vの交流は、100Vの直流と同じ電力を発生させます。

正弦波交流の実効値

正弦波交流の実効値は、最大値(振幅)を√2で割った値になります:

\[ I = \frac{I_m}{\sqrt{2}} \approx 0.707 \times I_m \; [\mathrm{A}] \]

ここで \(I\) は実効値、\(I_m\) は最大値です。

実効値はなぜ必要か

交流は常に変化しているため、単純に最大値だけでは電力の計算ができません。実効値を使うことで、交流でも直流と同じように電力計算ができるようになります。

家庭用コンセントの「100V」とは、交流電圧の実効値を表しています。最大値は約141V(100×√2)になります。

例題:実効値の計算

最大値が10Aの正弦波交流の実効値を求めてみましょう。

\[ I = \frac{I_m}{\sqrt{2}} = \frac{10}{\sqrt{2}} \approx 7.07 \; [\mathrm{A}] \]

つまり、最大値10Aの正弦波交流は、約7.07Aの直流と同じ電力効果を持ちます。

交流の電力

交流回路での電力は、電圧と電流の関係によって決まります。ここでは、抵抗に流れる交流の電力について説明します。

瞬時電力と平均電力

交流回路では、電力は時間とともに変化します:

  • 瞬時電力:ある瞬間の電力値。電圧と電流の積で計算
  • 平均電力:1周期にわたる瞬時電力の平均値。実際に消費される電力

抵抗での電力計算

抵抗 \(R\) に正弦波交流 \(i(t) = I_m \sin(\omega t)\) が流れる場合:

\[ \begin{aligned} P &= I^2 R \; [\mathrm{W}] \\[10pt] &= \left(\frac{I_m}{\sqrt{2}}\right)^2 R \; [\mathrm{W}] \\[10pt] &= \frac{I_m^2}{2} R \; [\mathrm{W}] \end{aligned} \]

ここで \(I\) は電流の実効値、\(I_m\) は電流の最大値です。

交流電力の特徴

正弦波交流が抵抗に流れると、瞬時電力は常に変動しますが、その平均値(平均電力)は一定になります。この平均電力が実際に熱などに変換されるエネルギーです。

抵抗での交流電力計算は、実効値を使えば直流の場合と同じ計算式 \(P = I^2 R\) が使えます。

注意点

コイルやコンデンサが含まれる回路では、電力の計算はより複雑になります。それらの素子では電気エネルギーが一時的に蓄えられたり放出されたりするため、「無効電力」という概念が必要になります。高校物理では基本的に抵抗のみの回路を考えます。

簡単な計算例

ここでは、交流電力の計算例を紹介します。実際に計算することで、交流の電力についての理解を深めましょう。

例題1:正弦波交流の電力計算

最大値10Aの正弦波交流が5Ωの抵抗に流れるとき、消費される平均電力を求めなさい。

解答

まず、電流の実効値を求めます:

\[ I = \frac{I_m}{\sqrt{2}} = \frac{10}{\sqrt{2}} \approx 7.07 \; [\mathrm{A}] \]

次に、平均電力を計算します:

\[ P = I^2 R = (7.07)^2 \times 5 \approx 250 \; [\mathrm{W}] \]

または、最大値から直接計算することもできます:

\[ P = \frac{I_m^2}{2} R = \frac{10^2}{2} \times 5 = 250 \; [\mathrm{W}] \]

例題2:家庭用電気機器の電力

家庭用コンセント(100V)に接続した電気ヒーター(抵抗20Ω)の消費電力を求めなさい。

解答

コンセントの電圧100Vは実効値です。オームの法則から電流の実効値を求めます:

\[ I = \frac{V}{R} = \frac{100}{20} = 5 \; [\mathrm{A}] \]

消費電力は:

\[ P = VI = 100 \times 5 = 500 \; [\mathrm{W}] \]

または:

\[ P = I^2 R = 5^2 \times 20 = 500 \; [\mathrm{W}] \]

または:

\[ P = \frac{V^2}{R} = \frac{100^2}{20} = 500 \; [\mathrm{W}] \]

実用的な電力計算

実生活での電力計算では、以下の公式がよく使われます:

\[ P = VI \; [\mathrm{W}] \]

ここで、\(V\) は電圧の実効値、\(I\) は電流の実効値です。

例えば、100Vで2Aの電流を使う電気機器の消費電力は:

\(P = 100 \times 2 = 200\) [W]

🔍 ワンポイントアドバイス: 交流の電力計算では、実効値の概念がとても重要です。実効値を使えば、交流でも直流と同じように簡単に電力計算ができます。「実効値=最大値÷√2(約0.707倍)」という関係を覚えておくと便利です。また、一般家庭のコンセントに表示されている「100V」は実効値であり、実際の電圧の最大値は約141Vになることも知っておくと良いでしょう。

今日はひずみ波を含む回路の平均電力計算について勉強するで!まずひずみ波ってなんやと思う?

はい、先生!ひずみ波とは、純粋な正弦波ではなく、複数の周波数成分が含まれている波形のことだと思います。基本波と高調波が合成されたものですよね。

そうや!よう知ってるなぁ。ひずみ波は基本波と高調波の合成波や。今回の問題では、ひずみ波 \(i\) が基本波 \(i_1\) と第3調波 \(i_3\) で構成されてるんや。それぞれこんな式で表されてるで:

\(i_1 = 6\sin\omega t\)

\(i_3 = 2\sin 3\omega t\)

ここで、\(\omega\) は角周波数やね。まずはこの基本波と第3調波の実効値を求めていこか。実効値の求め方覚えてるか?

はい、先生!正弦波の実効値は、振幅の値を \(\sqrt{2}\) で割ることで求められます。つまり、\(I = \frac{I_m}{\sqrt{2}}\) ですね。ここで \(I_m\) は振幅の値です。

この公式を使って計算してみます:

\[ \begin{aligned} I_1 &= \frac{6}{\sqrt{2}} \\ &= 3\sqrt{2} \ \mathrm{[A]} \end{aligned} \]

同様に、第3調波の実効値も計算できます:

\[ \begin{aligned} I_3 &= \frac{2}{\sqrt{2}} \\ &= \sqrt{2} \ \mathrm{[A]} \end{aligned} \]

よって、基本波の実効値は \(I_1 = 3\sqrt{2} \ \mathrm{[A]}\)、第3調波の実効値は \(I_3 = \sqrt{2} \ \mathrm{[A]}\) となります。

ええやん!バッチリやな!基本波と第3調波の実効値がわかったところで、次は平均電力を求めていくで。回路に抵抗 \(R\) があるとして、平均電力 \(P\) はどう計算するか考えてみ?

はい、先生!抵抗 \(R\) の両端に正弦波電圧が加わる場合、平均電力 \(P\) は実効値の二乗に比例します。つまり \(P = RI^2\) です。

ただし、今回はひずみ波なので、各周波数成分ごとに電力を計算して合計する必要があります。基本波と第3調波の電力の和として:

\[ \begin{aligned} P &= RI_1^2 + RI_3^2 \\ &= R \cdot (3\sqrt{2})^2 + R \cdot (\sqrt{2})^2 \end{aligned} \]

この式に抵抗値を代入すれば、全体の平均電力が求められます。

そうそう!異なる周波数の成分同士は打ち消し合うから、最終的に各周波数成分の電力の和として計算できるんや。今回の問題では抵抗 \(R = 5 \ \Omega\) やから、これを使って平均電力を計算してみよか?

はい、先生!抵抗値 \(R = 5 \ \Omega\) を使って計算します。

\[ \begin{aligned} P &= RI_1^2 + RI_3^2 \\ &= 5 \times (3\sqrt{2})^2 + 5 \times (\sqrt{2})^2 \\ &= 5 \times 9 \times 2 + 5 \times 2 \\ &= 5 \times 18 + 10 \\ &= 90 + 10 \\ &= 100 \ \mathrm{[W]} \end{aligned} \]

よって、この回路で消費される平均電力は \(P = 100 \ \mathrm{[W]}\) となります。

選択肢の(3)が答えです

完璧や!計算過程もバッチリできてるなぁ。これでひずみ波が含まれる回路の平均電力が \(P = 100 \ \mathrm{[W]}\) と求められたわけや。

整理しておくと、ひずみ波の平均電力を求めるときのポイントは:

1. 各周波数成分(基本波と高調波)ごとに実効値を求める

2. 各周波数成分の電力を計算する(\(P_n = RI_n^2\))

3. それらの和が全体の平均電力になる

このやり方は交流回路の電力計算の基本やから、しっかり覚えておいてな!高調波成分が多くなっても、同じ考え方で計算できるで。

ありがとうございます、先生!ひずみ波の平均電力計算について理解できました。各周波数成分ごとに実効値を求め、それぞれの電力を計算して足し合わせるという方法ですね。

これは電気主任技術者試験でも重要な考え方だと思いますので、しっかり覚えておきます。異なる周波数成分同士は打ち消し合い、電力に寄与しないという点も重要なポイントですね!

そうや!よう理解できてるなぁ。もう一つ大事なポイントを教えとくで。なんで異なる周波数成分同士は打ち消し合うと思う?

はい、先生!異なる周波数成分同士が打ち消し合う理由は、それらの積の平均値が0になるからだと思います。

例えば、\(i_1 = 6\sin\omega t\) と \(i_3 = 2\sin 3\omega t\) の積を一周期にわたって平均すると、正の部分と負の部分が完全に打ち消し合って0になります。これは異なる周波数の正弦波同士が直交関係にあるためです。

つまり、電力の計算では基本波と第3調波の「クロス項」は考慮しなくてよく、各周波数成分の電力だけを考えれば良いということになりますね。

素晴らしい!完全に理解できてるわ!そのとおり、異なる周波数の正弦波同士は直交関係にあるんや。数学的には、異なる周波数の正弦波の積を一周期で積分すると0になる。これをフーリエ級数の直交性っていうんやけど、この性質のおかげで、複雑なひずみ波の電力計算も簡単にできるようになるんやな。

この知識は第三種電気主任技術者試験の電力や高調波に関する問題でめっちゃ役立つから、しっかり身につけてな!

ありがとうございます、先生!フーリエ級数の直交性という性質が電力計算を簡単にしてくれるんですね。周波数の異なる成分同士は積の平均がゼロになるという性質は、電気回路の解析で非常に役立つことがわかりました。

これからも高調波を含む回路の計算などで活用していきます。貴重な知識をありがとうございました!

解説まとめ

1. 与えられた条件
\[ \begin{aligned} i_{1} &= 6\sin \omega t \\ i_{3} &= 2\sin 3\omega t \end{aligned} \]
2. 実効値の計算
\[ \begin{aligned} I_{1} &= \frac{6}{\sqrt{2}} \\ &= 3\sqrt{2} \\ I_{3} &= \frac{2}{\sqrt{2}} \\ &= \sqrt{2} \end{aligned} \]
3. 平均消費電力の計算
\[ \begin{aligned} P &= RI_{1}^{2} + RI_{3}^{2} \\ &= 5 \times (3\sqrt{2})^{2} + 5 \times (\sqrt{2})^{2} \\ &= 5 \times 18 + 5 \times 2 \\ &= 90 + 10 \\ &= 100 \ [\mathrm{W}] \end{aligned} \]